勝負師
将棋の羽生義治が書いた「決断力」という本を読んだ。
一時期は寝癖をつけたまま試合に臨むというキャラクターで話題になった彼だけど、この本を読んでそんな外見からは想像できないような強烈な勝負の世界で生きている人だということがわかった。さすがは名人。
勝負の世界で直面する恐怖や緊張、直感、経験、精神力に体力。それらと向き合いながらひとつひとつの場面で決断して駒を指していくということにはこれほどまでにストイックなものなのかということ、そしてそこで起こっている出来事は盤面の上のみならず、人生にまで通用する話だということだった。
「二人の剣豪が決闘を始めたとする。立ち会ったときは距離が離れているが離れていては勝負がつかないから前へ進まなくてはならない。進めばそれだけ危険が迫る。怖いから下がりたくなるが、一歩下がっても相手に一歩詰められるだけ。状況は変わらないばかりか逆に悪くなる。怖くても前へ進んでいく、そういう気持ち・姿勢が非常に大事だと思っている」
彼は将棋・勝負の世界は突き詰めていけば狂気の世界だという。いつもいつも将棋のことばかり考えていると頭がおかしくなってきて、一度そういう世界に入ったらもう戻って来れないだろう、入り口は見えているけど入らないでおこうと思っている、とまで。
勝負の世界の厳しさは勝負をする人間にしかわからない。突き詰めていけば確かに狂気の世界なのかもしれない。でもそこでしか見えないものは大いなる説得力をもつ。
言葉に説得力があり、自信がある人は一歩踏み出して大なり小なりの勝負をした人だ。
来るものをただ流れ受けるだけではなく、自ら進んでいくことで道が開けることもあるということは日々の生活の中でも頭に刻んでおきたい。